船舶が山口県周防大島の橋梁に衝突し、橋桁、送水管、電力・通信ケーブル等を損傷させ、約40日間の断水を生じさせた事故について、船舶所有者が船主責任制限法に基づく責任制限手続を申し立てた事案である。債権者らは、船長らの航海計画及び操船が無謀であり、船主自身にも安全管理上の重大な欠陥があるとして、責任制限は認められないと主張した。
広島高裁は、責任制限を阻却する「損害発生のおそれを認識しながらした無謀な行為」の主張立証責任は、制限債権者が負うとした。また、船長や航海士に阻却事由が認められる可能性があっても、それが当然に法人たる船舶所有者へ及ぶものではなく、船主の代表機関又は運航に関する最高責任者について、損害発生のおそれの認識と無謀な行為が必要であると判示した。
本件では、船長らが橋梁の高さを十分確認せず、危険を認識しながら回避措置をとらなかったことが事故の直接原因とされた。他方、船主が問題の航海計画を認識し、航行へ介入していた証拠はなく、船長らも必要な資格及び経験を有し、ECDIS訓練を受けていた。安全管理マニュアルや教育指導に不十分な点があったとしても、船主が船長らの安全意識の欠如を認識・容認していたとは認められないとされた。
さらに、橋梁復旧費用は公法上の原因者負担金であっても、船舶の運航に直接関連して生じた船舶以外の物の損傷に基づく債権として制限債権に該当するとされた。事故被害が甚大であることのみを理由に、責任制限の申立てが信義則違反又は権利濫用となるものでもない。以上から、責任制限手続開始決定は維持され、債権者らの即時抗告は棄却された。