King Crude Carriers SA and Others v Ridgebury November LLC and Others [2024] EWCA Civ 719

Norwegian Saleform 2012に基づく3隻の船舶売買契約において、買主がエスクロー口座開設に必要な書類の提出又は契約書への署名を怠り、売買代金の10%に当たるデポジットを支払わなかったため、売主が損害賠償ではなく債務として請求できるかが争われた事案である。デポジット支払義務は、エスクロー口座の開設を前提としていたが、その前提条件が満たされなかった原因は買主自身の契約違反にあった。

控訴院は、Mackay v Dickの原則に基づき、契約当事者は自らの違反によって条件の成就を妨げ、その不成就から利益を得ることはできないと判示した。この原則は、①契約上、損害賠償ではなく一定額の債務が発生すること、②その債務の発生が先行条件の成就にかかっていること、③その条件を左右する当事者が成就を妨げないとの合意が認められる場合に適用される。

本件では、デポジットは支払期が到来すれば売主に対する債務となり、第三者であるエスクロー・ホルダーへ送金する形式であっても、その性質は変わらない。買主には口座開設に協力する義務があったにもかかわらず、自ら必要書類を提出せず条件の成就を阻止したため、当該条件は成就したものとして扱われるとされた。したがって、売主は実損の立証を要する損害賠償請求ではなく、デポジット全額を既発生の債務として請求できる。これは売主に不当な利益を与えるものではなく、買主に契約上の約束を履行させ、自らの違反によって売主の契約上の利益を奪うことを防ぐものであるとして、売主の控訴が認められた。