2隻の船舶を裸用船した用船者について、保証会社グループの持株比率低下が契約上のTermination Eventに該当するとして、船主が用船契約を解除し、本船の即時返船を求めた事案である。紛争はLMAA仲裁に付されていたが、船主は仲裁判断を待たず、Arbitration Act 1996第44条に基づき、裁判所に対して本船の返船又は返船のための一切の措置を命じる暫定命令を求めた。
裁判所は、まずLMAA仲裁廷には、当事者間で特別に権限を付与しない限り、この種の暫定的な返船命令を出す権限はないとした。他方、第44条3項による裁判所の介入は、資産又は権利の保全を目的とする緊急の場合に限られ、契約上の権利を保全するためにも利用し得るが、仲裁廷の本案判断を事実上先取りすることのないよう慎重であるべきとした。
本件で船主が求める返船命令が発令されれば、下位の裸用船契約等も実質的に終了し、船主は船舶を自己の用途に再配船できることになるため、後に仲裁廷が用船者側の主張を認めても容易に原状回復できない。したがって、この命令は暫定措置というより実質的な終局的救済に近く、仲裁廷の役割を代替するものになるとされた。
さらに、仲裁廷による判断まで数か月程度を要するとしても、それだけで緊急性は認められなかった。用船料は前払いされ、一方の船舶はドック入り予定であり、短期間の継続使用による重大な損害や船体劣化の危険も認められなかった。以上から、第44条3項の要件は満たされず、船主の暫定的返船命令の申立ては棄却された。