船舶Le Liがインドネシアの港湾施設から離岸した直後にトレッスル橋へ衝突し、橋の一部を崩壊させた事故について、橋の所有者OKIがインドネシアで提起した不法行為訴訟を、船主CSSCが船荷証券中のシンガポール仲裁条項に反するとして差し止めようとした事案である。
船荷証券には、ヘッドCOAの英国法準拠・シンガポール仲裁条項が組み込まれていた。もっとも、裁判所は、OKIの請求は貨物の運送や船荷証券上の義務違反ではなく、橋への損害を理由とする独立した不法行為請求であると整理した。そして、不法行為請求が仲裁条項の「契約から生じ又は契約に関連する紛争」に含まれるかは、単に事実関係が重なるかではなく、契約関係と因果的に結び付いているかで判断すべきとした。
本件では、OKIは船荷証券に基づく契約請求をしておらず、橋損傷と貨物運送契約との間にも十分な因果的関連はなかった。船主側が安全港保証などの契約上の抗弁を主張し得るとしても、それだけで橋損傷請求全体が仲裁対象になるわけではないとされた。
また、事故地であるインドネシアが不法行為請求の自然な法廷地であり、同国での訴訟提起は嫌がらせ的でも、シンガポールの責任制限手続を不当に妨害するものでもなかった。したがって、インドネシア訴訟は仲裁合意に違反せず、訴訟差止命令は認められなかった。
(控訴審あり)