Great Lakes Reinsurance (UK) plc v RAV Bahamas Ltd [2024] UKPC 11

バハマのマリーナに係留されていたモーターヨットRum N’Cokeが、所有者の関係者を装った者に持ち去られたため、保険金を支払った保険者Great Lakesが、代位によりマリーナ運営者RAVに損害賠償を求めた事案である。RAVは引渡しに際して来訪者の身元を確認していなかったが、係留契約では、盗難を含むあらゆる原因から船舶を保護する責任は所有者側にあると定められていた。

枢密院は、RAVには盗難を防止する不法行為上の注意義務はないと判断した。本件で問題となるのは、RAVの積極的行為による損害ではなく、第三者による盗難を防止しなかったという不作為である。不作為について責任を負わせるには、被告が危険防止の責任を引き受け、かつ危険源に対して特別な支配を有していたことが必要となる。しかし、所有者は船舶の鍵をRAVに預けておらず、RAVが船舶の引渡しを管理する制度も存在しなかったため、盗難防止責任の引受けは認められなかった。

また、仮に何らかの保安上の注意義務が存在したとしても、その違反と盗難との因果関係は立証されていない。さらに、係留契約は盗難防止責任を明示的に所有者へ負わせており、RAVに同責任を課す解釈とは両立しない。契約上も、RAVが船舶の盗難を防止すべきとの明示条項はなく、そのような黙示条項を認める必要性もなかった。むしろ、黙示の注意義務を認めれば、所有者が盗難防止責任を負うとの明示条項に反する。したがって、不法行為及び契約のいずれに基づく請求も認められず、Great Lakesの上訴は棄却された。