米国財務省OFACの制裁対象者リストに指定された用船者Uniciousが、航海用船契約上の貨物引渡しを拒絶した船主に対する仲裁請求の担保としてAlpine Mathildeを差し押さえたところ、船主が不当差押えによる損害賠償を求めた事案である。貨物は制裁上の凍結財産となり、米国法人である船主は、Uniciousへの引渡しにより制裁を受ける危険があった。Uniciousは代理人を介した形式的な転売により貨物を受領しようとしたが、その取引は南アフリカ及びマレーシアの裁判所で仮装取引と認定されていた。
裁判所は、まず、不当差押えによる損害賠償の問題は仲裁合意の対象ではないと判断した。仲裁では用船契約上の責任が争われており、裁判所の差押手続から生じる不当差押えの責任は別個の問題である。また、仲裁手続を理由とする訴訟停止の申立てもされていなかった。
不当差押えについては、差押申立人に悪意、又は悪意に相当する重大な過失がある場合に損害賠償が認められるとの基準が適用された。本件でUniciousは、貨物が凍結財産であり、船主が合法的に引き渡せないことを十分認識していた。さらに、仮装売買が既に複数の裁判所で否定されていたにもかかわらず、船主が米国法人ではないとの事実に反する主張を新たに持ち出して差押えを行った。
裁判所は、Uniciousには仲裁請求が正当であるとの誠実な認識がなく、船主が制裁回避策に協力しなかったことへの圧力又は制裁として差押えを利用したと評価した。差押申立時には重要事項の不開示及び不正確な説明もあり、差押えには合理的な根拠がなかったとして、悪意又は重大な過失を認定し、船主に差押期間中の損害及び無駄となった費用の賠償を認めた。