中国・青島沖でA SymphonyとSea Justiceが衝突し、船体・貨物損害及び重大な油濁事故が発生した。シンガポールでの対物訴訟を停止する際、Sea Justiceの船舶差押えに代えて提供された担保を維持すべきかが争われた事案である。両当事者は中国でも責任制限基金を設立し、衝突責任に関する訴訟を提起していた。
下級審は、事故地、準拠法、証拠及び関連訴訟の重複を考慮し、中国が明らかにより適切な法廷地であるとして、シンガポール訴訟を停止した。他方、差押命令自体については、申立時の重要事項の不開示はなかったとして取り消さなかったものの、訴訟停止に伴い担保を返還すべきと判断した。A Symphony側は、中国で得られる責任制限額がシンガポールより低いことなどを理由に、中国判決の担保としてシンガポールの担保を維持するよう求めた。
控訴院は、この主張を退けた。中国が最適な法廷地であり、同国で既に責任制限基金が設立されている以上、シンガポールの担保を維持することは、船主が責任制限を行う法廷地を選択する権利を実質的に妨げる。海事責任制限制度の基本原則は、船主が一つの基金のみを設立し、事故に関する全請求をその基金から処理する点にある。別国の担保を残せば、事実上、船主にシンガポールでも追加の基金を設けさせる結果となる。したがって、担保維持は正当な手続上又は法的利益の保護ではなく、中国の責任制限制度を回避しようとするものと評価され、訴訟停止に伴い担保を解放すべきであるとして控訴は棄却された。