テムズ川の係留場所を使用させていた者が、未払係留料を担保するためハウスボートを留置する権利を有すると主張し、船舶が持ち去られたことについて占有権侵害による損害賠償を求めた事案である。原告は、その権利が海事先取特権に基づくと主張したが、第一審は請求を却下した。
控訴院は、留置権とは、物に関する債権が弁済されるまでその物の占有を保持する権利であり、占有を失えば留置権自体は消滅するものの、留置権を無視して物を持ち去った者に対しては不法な干渉を理由とする請求が生じ得ると説明した。
もっとも、海事先取特権が認められるのは、冒険貸借、救助、船員賃金、船舶衝突等による損害など、限定された類型に限られる。船用品供給、曳航、パイロット業務その他の海事取引上の債権が当然に海事先取特権を生じさせるものではなく、未払係留料についても同様である。したがって、原告には海事先取特権は認められなかった。
一方、係留契約の条項によって契約上の留置権が成立する可能性までは否定されなかった。しかし、現段階では、ハウスボートがいかなる契約条件で係留され、誰が係留料を負担し、どのような未払が生じたのかが十分に主張されていなかった。そこで控訴院は、契約上の留置権に基づく請求を具体的に補充する機会を与えるべきとして、その限度で控訴を認めた。