船舶売買契約上、買主がエスクロー口座開設に必要な書類を提出しなかったため10%の預託金が支払われなかった場合、売主がその預託金を「債務」として請求できるか、それとも損害賠償しか請求できないかが争われた。
売主は、買主自身の契約違反によって預託金支払の前提条件が成就しなかった以上、その条件は成就したものとみなされるべきであり、預託金を債務として請求できると主張した。しかし最高裁は、条件成就を妨害した当事者について条件を「成就したものとみなす」とするMackay v Dickの原則は、英国法上の一般原則ではないと判断した。契約上の条件が実際に満たされていない以上、架空の条件成就を認めて債務を発生させることはできない。また、自己の違反から利益を得てはならないとの考え方も、明確な契約条項を無視して支払義務を創設する根拠にはならない。買主は違反による損害賠償責任を負い得るが、損失がなければ実質的な賠償は生じない。その結果、売主は預託金を債務として請求できず、立証された損害の範囲でのみ損害賠償を請求できるとされた。